対策はあるのか?
所長 『どうするんだ!明日、現地の監督が飛行機で本社に飛んでくる!』
ラリーチーム長 『何か対策はあるか?明日、本社へ行って説明して来て欲しい。』
当方 『説明の補強案で対応できます。当方が説明してきます。』
急遽、本社へ出張。朝一番の新幹線に乗って、本社の広報部に顔を出した。
広報部 『監督が来ているけど、ご立腹だよ。対策を持ってきたの?大丈夫?』
当方 『大丈夫です。午後の会議で説明します。』
改善内容の説明
午後の会議の前、監督を案内してランチへ。広報部から紹介された当方に対して、監督は、目を合わせない。明らかにご立腹である。食事中、無言で目を合わせない。重たい空気。
さて、午後の会議。相変わらず、憮然とした態度の監督。パリダカスタートまでのスケジュールを確認する。そして、いよいよ、当方の出番。本日の最大の山場である。
持参した1/1 の手書きの計画図(コピーであるが)をホワイトボードに貼り、説明に入った。
『来年投入の新型ラリー車は、エンジン性能が上がり、昨年出場のままの駆動系では強度容量が足りない。そこで、フロントデフは、衝撃強度をあげ、リヤデフは疲労強度を向上することにした。この計画図は、現状との対比を示している。当方の試算では、昨年のエンジンと駆動系の組み合わせによる強度寿命レベルよりも、来年度の方が、はるかに改善され安全率が高い。』
現物の持つプレゼン効果
そして、持参した『フロントデフ用4ピニオンデフケースアセンブリ(実物)』を監督に見せた。
突然、監督は、当方の話を遮った。
監督 『いつ、我々は、あなたの説明した補強部品を手にできるのか?』
当方 『すでに実物はある。いつでも、手渡せる。』
監督 『では、すぐに持って帰りたい。すぐに渡して欲しい!』
広報部に向かって、『明日の帰国便を予約してくれ!』
実物は、自分の机の前に置いてあった。会議室から技術センターへ電話した。
『僕の机の前に段ボールに入ったフロントデフとリヤデフがある。部品を成田空港のロジスティック宛てに緊急で送れないか? 詳しくは、ラリーチームと広報部と相談して対応して欲しい。』
会議は終わった。持参した4ピニオンデフケースアセンブリは、監督に手渡した。監督は、顔面笑顔で受け取ってくれた。
このプレゼンで得たものは、現物の強さである。監督に説明する時点で、現物が無ければ、ここまで監督が納得したであろうか?日常的に『改善策や補強策』を論じることは多い。技術センター内であれば、お互いが討議する土壌は同等であり、物は無くても結果は推測できる。認可をもらってから試作し評価、そして量産化と進めば良い。
対策効果は証明された…
後日、現地での耐久試験は、問題なく合格したと聞いた。丸坊主だった歯車は、まったく正常で摩耗も無し。設計検討の正しさが証明できた。
後日、聞いたのだが、監督は、当方が手渡した4ピニオンデフケースは、手荷物として機内に持ち込み、自分の膝の上に置いて、帰国したとのこと。成田空港へ送った荷物は、同じ便で監督と共に移動した。
『信頼が得られて良かった。事前に準備しておいてよかった。自分が正しいと思ったことは、周りの意見など無視して進めるべきだ』と悟った事件であった。
