スパイクタイヤの粉塵が健康問題となった…
1991年に、乾燥路でのスパイクタイヤの使用に関する法律である「スパイクタイヤ粉じんの発生の防止に関する法律」が施行された。クルマの氷雪道路走行は、スパイクタイヤ装着で、『走る・停まる・曲がる』は日常的に出来ていた。ましてや、北海道民や本土寒地住民は、雪道の運転に慣れていた。
スタッドレスタイヤの台頭と雪道走行での安全性能との天秤
でも、スタッドレスタイヤ装着では、2WD仕様は、『走る・停まる・曲がる』が難しくなった。FR2WDよりもFF2WDの方が、『走る・曲がる』が楽だと噂が広まると、タクシーや商用車以外に広く浸透していった。でも、4WDは、値段が高い、燃費が悪いなど、経済面での負担が高く、スタッドレスタイヤ施行までは、2WDでスパイクタイヤ使用が多かった。
それでも、スタッドレスタイヤの装着比率が年々増えていくと、北海道での4WD販売率が90%を超えるようになった。自動車メーカは、地元販売店の強い要請もあり、乗用車や軽自動車に4WD類別を追加し、市場投入していた。多くの4WDシステムが生まれた。なるべく、安価で安全に氷雪道路を走破できる『生活4WD』すなわち『オンデマンド4WD』(on demand=必要な時に4WDになる)が、軽や乗用車に広く展開された。
電子制御4WDの出現
クルマは、趣味性が高い。他人よりも速く走るのを好む一群が居る。
『FF乗用車で速く華麗に走る4WDは、パートタイム4WDなのか?フルタイム4WDなのか?』
の議論があった。この件は、面白いので、別の題目で話したい。
FF4WDの高性能版が各社から市場投入されていた。車両の運動性能を向上させるため、センターデフの差動制限を電子制御する方式が主流となった。当社もユニークな4WDを開発していた。
市販化されているターゲット車両と試作車を北海道に持ち込み、冬の駆動系試験をしたときの記憶を書き留める。
手っ取り早いのは、走りこむことと見たり…
設計として参加した走行試験。その一つに公道コンボイ走行があった。ターゲット車と試作車を比較走行する。一般道だが、峠越えもあった。
峠越え走行をしたときである。最初は、慣れている自社4WDなので、峠の雪道でも楽勝であった。
次は、問題の高性能FR4WDに乗り換え。
設計者との事で、同乗者は無し(運転訓練していないから危険とのチーム長判断)。最後尾から走り出した。
高性能FR4WDは、テストコースの周回路やクロカン路では評価済みであったが、雪道は初めて走る。
加速していくと、後輪が旋回外側に滑り出し、更にアクセルを踏んでいくと前輪が引っ張っていくタイプの4WD。

フィーリング走行後、とある駅前で集合し休憩中
車両特性に慣れ始めた頃、峠は下りに変わった。車両は、大きく右に回り込むと想定外に後輪が大きく旋回外側へ滑っていった。
思わず、アクセルを抜いてしまった。クルマは豪快にスピン。雪道で助かった。車両は、無事に道路上に残っていた。
『冷や汗が…』。先行車は、見えなくなった。
『LSD付車両と同じくアクセルは残す』…『忘れていた!』 その後も車両挙動に戸惑いながら、集合場所の駅前に着いた。
兎も角、手に汗握る時間であった。
Fr 0:Rr 100から後輪が滑り出すと Frにトルクを流し後輪の滑りを抑え車両を前に進める。
後輪駆動が主体の高性能スポーツカー。縦置きエンジンで、前後荷重配分が50:50なら良い運動性能を演出するし、舗装路なら良いシステムだろう。車両に慣れれば、手足のように扱えるだろうが、一般向きではなさそう。
運動性能を評価する…
次に、汎用路に移動し、スラローム試験を実施した。順番に車両を変え、タイムを計りを繰り返す。
とても面白く、自分の鍛錬にもなり、回数を進めていくと、走行タイムが短くなっていく。
でも、面白いのは、夕方になって、外気温が急激に下がった途端に、路面の摩擦係数が変わり、足をすくわれて『スピン』。
4WD方式の違いと運動性能の違いを身をもって体験できたのは大きな成果であった。

牧場に水を撒き、氷の層を作る。降雪で汎用路ができる
生活4WDは、多くの人々の冬の生活を守った…
雪道は、危険だし、雪の日は、出来れば運転したくない。自分は良くても『モライ事故』が怖い。というのは、雪の少ない本土の人々。北海道の人は、クルマがなければ買い物にも行けない場所が多々ある。日常の足として安全に楽に移動する助けは、生活4WD(オンデマンド4WD)である。HCU*の開発のため、前年の冬の駆動系走行試験を積み重ね、結論付けていた。
* Hydraulic coupling unit