休日の過ごし方
試験車で公道4WD評価をしない休日の過ごし方は、主に下記の項目を消化する。
●十勝岳温泉『湯元_凌雲閣』 で茶褐色の低温の露天風呂に1時間浸かる
●美瑛町にもどり、『らーめん山頭火』で塩ラーメンを食べる
●美瑛の丘に入り、雪原と木を見ながら、気が向くと撮影する。
ある休日の夕方…
夕方、美瑛の丘『セブンスターの木』で撮影。ちょうど、満月とコラボして、良い画像が撮れた。気分の良い帰り道のことであった。美瑛から旭川に向かって、長い下り坂がある。日も暮れて、交通量も多かった。なぜか、流れが悪い。前方を見ると、反対側車線へ入っている車がいる。蛇行している車がいる。
その時、運転していたメンバーが、
『コントロールできません!』と叫ぶ。
アクセルを踏むとタイヤがスリップする。ブレーキを踏むとABSが効くが、減速しない。ハンドルを切っても、車の進む方向が決められない。 為す術もない…
前車にぶつからないよう、後車がぶつからないように祈りながら、坂が終わるまで忍耐の時間を過ごした。

【イメージ】丘の上の雪道
抜けるまでの時間、周りを観察した。不思議な事に、路面に対向車のヘッドランプの光が吸収されて黒いまま。
『これが、噂のブラックアイスバーンなのか!』
スタッドレスタイヤの功罪【プラス面】
スタッドレスタイヤ適用が施行される前から、4WD駆動系の開発をしてきた。その時の記憶を紐解こう。
【スタッドレスタイヤ適用施行前】
初めてスタッドレスタイヤでの4WD駆動系試験をした年、一般道を走る車は、すべてスパイクタイヤ装着車であった。夜間、峠道を下っていると、後方から勢いよく近づいてきたヘッドランプが、やがて、対向車線に、そして、横から、前へ。赤いテールランプに変わり、やがて、遠ざかっていく。スパイクタイヤさえあれば、車なんてFRだろうが、FFだろうが、2WDで十分だ。 そんな時代であった。スタッドレスタイヤでも、意外と停まる信号交差点や一時停止ライン。
【スタッドレスタイヤ適用施行後】
スタッドレスタイヤ適用施行後、交差点で歩行者の転倒事故が多発。車も停止ラインを超えて交差点中央までタイヤロックして滑っていく事例が増えてきた。それまで、スタッドレスタイヤでの交差点問題は話題にならなかった。
『サマータイヤよりもスタッドレスタイヤの性能は、発進性も操安性も悪いのは理解できる。意外にもブレーキの効きの悪化は少ない』 当方の個人的な評価ではあるが…。
交差点問題は、
『ブレーキ作動時、スタッドレスタイヤのトレッド面で交差点付近の氷雪路面をツルツルに磨くこと』
路面摩擦係数が限りなく低くなり、タイヤも靴もスリップする。 ブラックアイスバーンも似たような状況で路面が作られるのであろう。スタッドレスタイヤの進化はすさまじい。年々、高性能化している。 タイやは、門外漢なので、この辺で止めておこう。
まあ、スタッドレスタイヤ装着義務は、4WDが市民権を得ることになった要因であり、かつ、駆動系開発を生業とするエンジニアが日の目を見るきっかけになった訳なので、喜ばしい限りである。

美瑛の丘 名の無い木 哲学の木を撮って、しばらく走ったところで目に入り、撮った。好きな一枚である。
スタッドレスタイヤの功罪【マイナス面】
なぜ、スタッドレスタイヤ適用施行前では交差点での歩行者転倒事故が少なかったのか?
懇意にしていたタイヤメーカー設計者から聞いたことがある。
設計者『スタッドレスタイヤが北海道で販売開始された年、市場モニターをしていた。ブレーキでタイヤの回転が止まったあとでも、車は慣性で進んでいく。タイヤのトレッド面で氷雪路面表面を鏡面化(路面摩擦係数の低下)しながら滑っていく。』
当方『加工面をヤスリで削ると、研削面が残ります。細かいヤスリであれば、研削面の深さと溝同士の距離が狭くなります。摩擦係数は下がるので、油や液体が介在すれば滑りやすくなります。そんなイメージですか?』
設計者『言っていることが、理解できないなあ??? 金属と金属との関係に比べ、ゴムと氷雪面との関係は、違うと思いますが…』●話がかみ合わない。 これ以上の深堀は危険だと直感した。
●設計者が更に情報を加えた。
設計者『クルマが交差点付近に停車します。すると、車体下の熱(排気熱)で、氷雪路面の表面が溶けます。そして、車が発進すると、溶けた表面は再氷結します。その繰り返しと環境温度、その他の要因もありますが、交差点付近の氷雪面は摩擦係数が低い氷面に変化します。』
●更に話は、噛合わずに自分の頭の中では、小さな理解の玉が飛んでいく。
設計者『すいません。交差点付近の歩行者用横断歩道で歩行者が転倒するようになった理由でしたね。実は、スタッドレスタイヤ適用施行後に理由が分かったのです。』
●よかった。話題が戻った! 飛んで行った玉が手の届くところで止まった。
設計者『スタッドレスタイヤ装着車が、信号が黄色になると、ブレーキを踏み減速しながら横断歩道を通過します。 トレッド面で横断歩道表面の氷雪面を磨きます。全ての通過車両がスタッドレスタイヤなので、どんどんと磨かれていきます。これが、歩行者転倒のメカニズムです。』
当方『???どういうことですか?』
設計者『スタッドレスタイヤ適用施行前は、スタッドレスタイヤ装着車とスパイクタイヤ装着車が混在していました。初めの頃は、スパイクタイヤ装着比率が高く、年々、比率は下がっていきました。』
設計者『スタッドレスタイヤで磨かれた氷雪面の上をスパイクタイヤ装着車が滑っていくと、磨かれた氷雪面に引っかき傷をつけます。すなわち、路面摩擦係数が上がる。歩いても滑りにくくなります。』
設計者『スタッドレスタイヤ適用施行後は、氷雪面に引っかき傷を付ける手段が無くなったので、歩行者転倒が出てきたという理由です。』
当方『なるほど。納得しました。』
●スパイクタイヤ装着車による舗装路面に引っかき傷を付けて粉塵公害が社会的問題になった。その後、スタッドレスタイヤ装着義務で粉塵公害は抑えられ、健康被害は減少した。でも、新たに、横断歩道での転倒事故が社会問題となった。
駆動系開発関係者としては、『4WDで自動車開発の中で脚光をあびることになり嬉しい限り』であった。
しかし、スタッドレスタイヤ装着義務が法制化されたことで、自動車の新たな社会問題を残し、その後、ブラックアイスバーン問題の一因となったのも皮肉である。
自動車は、目の前に現れる問題を知恵と技術とで解決しながら、進化を続けている。スタッドレスタイヤの技術進化は、日進月歩である。 一部では、オールシーズンタイヤも市場投入されてきた。
自分が小学校の頃、日本海側は豪雪地帯であり、冬は厳しいと学校で習ったし、ニュースも日常的に見ていた。
その後、温暖化で日本海での降雪量は減少してきて、豪雪地区は、限られてきた。今年の豪雪は、過去に戻ったのか? それとも、新たな降雪パターンなのか?一時的なのか? 今後とも注目すべきである。