サファリラリーの雄…本場自動車文化の『道』では勝てず…
自分の会社は?
会社は、FR2WDで悪路主体のラリーでは強みを発揮していたが、欧州の舗装路主体の高速ラリーや氷雪路ラリーでは、苦戦していた。 1970年代から1980年初頭は、FR2WD 2Lターボで戦っていた。上位には入れたが、優勝には届かなかった。
実は、この2WDターボラリー車が、1000湖ラリーで、入賞した時、そのラリー車に付けてもらったスペシャルなLSDがあり、ドライバーから好印象をもらっていた。『ジャンプ着地の車体方向性にブレが無い』
その経験をスタリオン4WDの改良の中でトライし、さらに後年、年次進化するFFスポーツ4WDの進化2代目に標準装備した。 懐かしい思い出である。
しかし、ラリーチームは、密かに4WDラリーの研究を進めていたのだ。量産設計を担当する自分には、情報が降りてくることは、しばらくの間、無かった。
なんか…とんでもない形態のラリー試験車を見てしまった…
1982年の夏ごろ、研究部の現場を訪れたときに、変わった形態のラリー試験車を見かけた。
『なんだろう?』 と思い、立ち止まって見ていると、ラリー車の神様に声を掛けられた。
『4WDだよ。〇〇〇ベースだよ。日本の北から南まで、いろんなサーキットを走ってきた。』
これは、後に話題になるスタリオン4WDではないのだが…ラリーの神様は、多くの可能性を模索しているのが分かった。
もし、目にした形態の4WDがWRCラリーにデビューしていたら、どうだったのだろうか?
歴史にif は無いので、パラレル世界でデビューしていたのかもしれない。
当時のWRCラリーは、1983年からグループBというカテゴリーになる。
200台製造すれば、20台のラリー出場ベース車を作れる規則
さて、ラリーチームは、正式に4WD競技車両構想を進めていた。
現場で目にした形態ではなく、比較的オーソドックスな縦置きFR4WDとなっていた。ベース車両は、スタリオン2WD。
各設計部門がサポートすることになり、グループBカテゴリーでホモロゲーションを取得する前提で動き出した。
量産200台を製造すれば、正常進化車20台が認められる。これをラリーベース車として、本番ラリー車を作り上げ、WRCラリー出場を目指す計画である。
いよいよ、WRCラリーの舞台へ…
駆動系系統は、駆動系設計部が担当。トランスミッションとトランスファーは、トランスミッション設計課、それ以外は、駆動系設計課が担当した。トランスファーは、最初、パートタイム4WDである。作っては走らせる。作っては走らせる。タイムが短縮できれば、採用される。遅ければ没。モータースポーツの開発は、スピードが速い。量産開発に比べれば、光陰矢の如し。トライ&エラー。泥臭いけど、関わっている自分は楽しい仕事。
時間は流れ、戦闘力向上の観点から変則パートタイム4WDからフルタイム4WDへ進化する。
そして、担当部品のプロペラシャフトから前後デフとドライブシャフトにセンターデフ部が加わり、当方の出番到来である。3つのデフの差動制限デフ(LSD)のロック率の組み合わせを検討する。
世界中を探しても正しい答など見つかるはずもない
『答の無いスタートラインに立った』
『技術者として、こんな機会は二度と無いだろう!』 心躍る瞬間であった。
自分が考えた仮説を実走行で実証できれば、
『それが、正しい答えである。』
昼も夜も考えた。夢の中で、車を走らせ続けた。
センターデフは、前後50:50が良いのだが、LSDロック率で前後の変化を考えると、低い方が良いのか? パートタイムのように直結(ロック率100%)が良いのか?
その後、参加したラリー車走行試験で得られたデータと感触から、『駆動系部品のアレンジでクルマの味付けを左右できると分かったこと』は、自分の設計人生で最大の喜びと成果であった。ただ、当時は、電子制御湿式多板クラッチなんて代物は、駆動系の世界では製品化されていなかった。

4WDラリー車用デフLSDの組み合わせ検討資料
ラリー4WDに適するであろうセンターデフ機構に思い悩む楽しい日々…
あくまで、
①機械式LSDで改良するのか?
②別の機械式デバイスを組み合わせた
アイデアで実現するのか?
の2択であった。
多くの興味深い情報が点在する開発環境のなかで、量産設計とラリー車開発支援という2足の草鞋で歩むという幸せな機会を得ていた。
試行錯誤を繰り返し、3つのデフLSDロック率の組み合わせを3通り設定、それらを試作部品としてカタチにし、日常の量産設計業務に取り組んでいた。多忙な開発業務の日々。時間は気持ちには関係なく淡々と流れていた。その流れを止めるように、ラリーチームから試験参加の要請が来た。数日間の出張あるが、いつもの出張のように、ネクタイ+スーツではなく、作業帽+作業服がドレスコードである。

大学時代、サザンクロスラリー優勝凱旋ショーで
目の当たりに見た優勝者の激走(at 蒲郡ダートラ場)

自動車試験場ハンドリング路面での走行試験風景