日本と異なる英国の気候に驚く…
冷たい雨が降り続く夜。部屋の扉を開けようと手をのばす。まだ、50cmは離れているのに、『バチッ!』青白い光の帯が指のとドアノブの間に走る。肘に激痛が襲う。静電気である。
『雨降りなのに~』
英国は、乾燥がひどい。雨でも関係ない。
もうひとつの驚き。ペンション手前の急カーブにある大きな木。丘からの帰り。大きな葉っぱに覆われていた。翌朝、丘に向かって木の急カーブを通過しようとしたとき、すべての葉っぱが道路上に落ちていた。
夜は無風で満月が輝いていたのに…。この気候が、産業革命に一役買っていたと思ったのは、数日後の話である。

ラリーを支える現地サプライヤー調査先を訪問…
今回の出張では、もうひとつの大きな目的があった。
英国は、モータースポーツ文化が発展している。欧州ラリーチームは、日本ラリーチームに、ラリーをサポートする現地サプライヤー調査先を準備していた。スコットランドから南下する車のなか、長身の技術ダイレクターは、当方に『ぜひ見て欲しいサプライヤーがある』と伝えてきた。『フルタイム4WDのセンターデフに使うと戦闘力が上がるのではないか?』
独特の4WDシステムでジャンセンFF車を4WD化し販売していた英国の会社。ファーガソンフォーミュラ社と記憶していたが、『ファーガソン・リサーチ研究所』が正しい名前である。

サプライヤー調査の一コマ
百聞は一見に如かず…目から鱗が落ちる…びっくりした
英国の中部地方、小学校の木造校舎のような建物。入口から木張りの廊下を歩き薄暗い教室のような部屋に招き入れられた。入口から、スキンヘッドで白衣を着た長身のドイツ人が入ってきた。強面である。握手をしたが、強い力で握られた。後日談である。当方は、グローバル駆動系会社に転職した。その転職先の同じ部署で働くことになる人であった。彼のプレゼンは、後の世界を席巻する『VCU』(Viscous Coupling Unit) 粘性カップリングであった。異国の地で出逢った駆動系デバイス。プレゼンを聞いているうちに、ラリー車用と言うよりも、一般車により適する印象を持った。次に実験室へ案内された。デモンストレーションである。
円筒状デバイスの片側の回転軸にハンドル、反対側に荷重計がつながっている。ハンドルを回すように促される。
●ハンドルをゆっくりとまわす➡ハンドルをまわす力(抵抗)は
小さい➡ハンドルを数回転させても、荷重計の針は動か
ないことを確認した
●ハンドルを早くまわす➡ハンドルをまわす力(抵抗)は大きい
➡ハンドルを数回転まわすと荷重計の針がびっくりする
くらい跳ね上がる。
たった、これだけの実験で、『VCUは、只者ではないオーラ』 を放つことが理解できた。
ハンドルを持つ手が震えていた。スキンヘッドの説明者は、
その変化を見逃さずし、ニコッと微笑んだ。ラリーメンバも 代わるがわる台上デモ機を試し、歓声をあげている。
次に、車両実験室に案内された。二柱リフトに持ち上げられた車両があった。下回りから、VCUユニットの説明である。 元々、FF2WDであったが、VCUユニットを使って4WDに改造した車両で、実際に販売されている車両であった。センターデフはないので、オンデマンド4WD*である
*この時点では、現代用語辞典にも
載せられていなかった用語

【参考】床下画像(2014北京モーターショー調査画像から)
理論を読んで理解するよりも、現象に出逢うことが勝る…
スキンヘッドの説明者は、容易されたデモカーを試乗するようにうながした。
ラリー車の神様の運転、ラリーエンジンの神様が助手席、チームリーダーと当方が後席に乗車して出発した。会社の近くの河原に砂を取る作業場がある。 土手から砂の坂を下り、フカフカの砂の広場に入る。試乗車は、比較のため、2WDと4WDを機械的に切り離すことができる。
●2WDモードで、停止から発進➡両前輪が砂に沈み発進困難●4WDモードで、停止から発進➡両前輪が空転し砂に沈みか
けるが後輪が車両を前方に押して砂に沈まずに発進可●4WDモードで、フルロック旋回をする➡タイトコーナーブレ
ーキング現象も発生しない。アンダーステアぎみではある
が、力強く旋回する。
頭の中で電球が光ったのを覚えている。乗車メンバーの評価は、良好である。ラリー車に使えるか?
車内では、ワイワイガヤガヤと話の花が咲いた。
会社へ戻り、試乗車を返却。 スキンヘッドの説明者に、VCUは、評価として発展可能性が高いことを伝えた。大量量産へつなげるには、シリコンオイルの調達と安定・耐久性であろうとも伝えた。
海外出張報告書には、
『VCUの早期検討を提案する。FF直結4WDの代わりとして副駆動系上にVCUを追加することで簡易4WDが出来そうであること。および、センターデフの差動ギヤの制御デバイスとして使えそうである。』
帰国後、お世話になっているサプライヤーが、VCUのプレゼンに来た。スキンヘッドの説明者からプレゼン結果が上奏され、日本の提携先に情報が入り、当方の帰国を待って、来訪してきたようだ。
『鉄は熱いうちに打て』である。その後については、VCUのテーマでブログを書くことにする。

【参考】4WD展示(2014年北京モーターショー調査画像)