実車での試験…現象から要因分析・改良へのフローが作られていく

出張の日。移動車両とラリー試験車を搭載したパネルトラックが待機していた。チームメンバに挨拶をし、移動車両に乗り込む。試験場所へは同乗のみなので、ピクニック気分である。
仕事として、他社車両の試乗や自社車両とのランデブー評価試乗がある。でも、レポート提出があるので些細なことも漏らすまいと運転したり、同乗したり。緊張状態なので、意外に辛い業務であった。

今回は、目的地までの移動なので、楽な移動である。東名高速道路から首都高速道路経由で東北自動車道に乗り換え、目的地近くで降りる。公民館のような平屋。暗かったが、里山に囲まれた田んぼが目の前に広がっている。物悲しげにカエルが鳴く、満天の星空が演出している。

所外評価走行

所外評価走行 御殿場間高速主体

いよいよ、駆動系メニューを確認する順番が来た

遠くからヘッドライトが近づいてくる。やがて、眩しくなり、ディーゼルエンジンの音。パネルトラックが到着した。
サイドのアルミパネルを跳ね上げると、ラリー試験車が見えた。サポートメンバや協力会社のメンバも合流、短いミーティングのあと解散となった。
翌朝から、本番の試験が始まる。緊張する1日がスタートした。宿泊場所に隣接するコースに移動。敷地内なので、秘匿性は高い。
山の中に重機で人工的に造られたコースがある。 よくある採石場のイメージである。
平坦のダート広場から急な砂利坂道を登り、平坦な頂上をめぐり、急な砂利道を下り、ダート広場に戻る周回コース。
走行評価ドライバーは、海外ラリーで名を馳せたプロが来日していた。会社社員でもある有名なラリーコーディネーターが同乗し、プロのコメントを聴取する体制。
ラリーチームが事前準備したメニューを淡々とこなしていく。エンジン・タイヤ…。
いよいよ、フルタイム4WDの確認メニューに入る。今回のコースを走り、3つのデフLSDロック率を固定する。
次のステージである欧州試験に提供する組合せを決めることが最大目的であった。
どの組合せから始めるか?事前にラリーチームへ提示していた当方の確認順番で確認がスタートした。

フルタイム4WD試験が始まった

  • この組み合わせからスタート
    FRONT:弱、 CENTER:中間、 REAR : 強 

    (流石に、数値を出すわけにはいかない。早期退職したとしても、秘匿は守らねばならない)

FRONT デフに LSD(差動制限)が必要なのか? 迷っていた。
左右輪の差動制限を入れると、ステアリング保舵反力が入り、ドライバーの感覚に違和感をもたらし、かつ、舗装路では直進安定性が悪くなるに違いない。このラリー車の開発のころ、FF2WDでフロントデフにLSDが装着されていたのは、全日本ラリーの軽自動車クラスのラリー車ぐらい。ラリーストの兄から、『直進安定性なんかよりも駆動輪へ少しでも駆動力を伝えるのが勝利への道だ!』と聞いていた。2000年に入ると、フロントLSDの装着例が増えていく。それには理由があった。このブログで話題にする時期はすぐにやってくる。

LANCER スピンターン練習

LANCER スピンターンの練習

フロントにLSDを準備したのは

① 旋回後の立ち上がりで車両を前へ前へと進めるため
② 後輪はスライドしていると前進させる駆動力は減少し失速する。その失速をおさえる効果をフロントLSDが作り出すのではないか、
と考えたからである

最初の組み合わせから試練が降りかかる…

試験車走行のとき、コースで監視するのも役割のひとつである。
指定位置に歩いていく。急な砂利坂道を登り切った頂点が当方の監視場所。
路面に砕石が敷き詰められている。一歩ずつ安全靴が沈む。足を取られる。
身がよろけ、砕石に手をつきながら、坂を上る。
ブルドーザなら低速で登れる勾配だが、最低地上高が十分なラリー車では、平坦路で加速をつけた勢いで登らないと、坂の途中で止まり砕石に埋まり亀の子になってしまう。
遠目に見えるスタート位置。ラリー試験車が走り始めた。4輪から土煙をあげながら、近づいてくる。
勢いよく白い車体が坂を駆け上り、力強く空転している前輪を宙に跳ね上げながら、目の前を通過し、土煙の中へ白い影が消えていく。その繰り返し。
通過するたびに土埃が帽子から作業服・靴まで堆積していく。やがて、試験車は、スタートラインに停車した。
監視場所から、砕石坂を滑りながら駆け下りてスタートラインに向かう。
エンジンが唸っている試験車の周りで、ガレージジャッキで試験車を持ち上げ、チームメンバが地面や下回りを見ている。

地面に広がったオイルの跡。駆動系部分からのオイル漏れなのか?

設計者の性で、すぐに試験車の下へもぐりこむ。
トランスファーケースの上部からケース側壁に残る黒い筋を見つけた。
熱せられた油だ。高温になっている。ブリーザからのオイル吹き出しと推測した。原因を特定するために、同様の走行をして、再現してもらう提案をした。
これ以上のオイル吹き出しは、コースを汚すので、ビニールホースをブリーザの代わりにケースに差し込み、ホースの反対側をシフトレバーカバー脇から車室内に回した。先端をポリ容器に差し込み、吹き出してくるオイルを受けるキャッチタンクとした。容器は、助手席周りに固定して、ラリーコーディネーター運転で再試験。
でも、1周で戻ってきた。クルマが暴れるので、簡易固定した容器がすぐに外れ、室内にオイルが流れてしまった。車内は、焼けたオイルのにおいで臭くなっていた。