プロの仕事…プロの道具…文化の違い
完璧な戦闘服(レーシングスーツ)をまとった昨夜のラリーストが、エンジニアに『マイステアリングに変えてくれ!』と持参したステアリングホイールを手渡す。ちらっと見たら、当方も好きなブランドの同じステアリングホイールであった。
『このオーバル断面のホイールが良いよね~』
心の中でほくそ笑む自分。なんか、良いことが起こりそうな予感がした。
エンジニアは、彼に合うようにバケットシートの位置とステアリングホイールの位置を時間をかけて固定していく。
彼らの仕草は、職人技である。隙がない。
そんな彼らも、スパナを手放したときは、どこにでもいる若者である。
ランチタイムのことだった。
ラリーの神様が持参したインスタント味噌汁にお湯を注いだ。
その数秒後、若者たちは、大声をあげてキャンピングトレーラから飛び出した。
日本人メンバは大笑い。英国人メンバは、渋い顔。 狭い空間で2極化した瞬間であった。
食文化の違い? 発酵食品の臭いだと思うが、まだまだ、日本食が世界に広まっていない1980年代前半であった。
雨に濡れた試験場。黒い森に合う黄色いレンいコート
ラリーチームが事前準備したメニューの順番で確認試験は進んでいく。ラリーストが走行評価する。同乗は、日本のテストでも一緒だったラリーコーディネーターである。かれが、ドライバーからのコメントを分かりやすく説明してくれる。
同乗できない自分は、目の前を通過する試験車の姿と音、五感をフル動員して 情報を漏らさないように待機していた。
メニューが進んでいく。 だんだんと、雨脚が強くなってきた。エンジニアが大量のレインコートと長いレインブーツを持ってメンバーに配っていく。当方に支給されたのは、小さいサイズだが、LLサイズ以上あるように感じた。英国サイズ?
歩行困難なほど靴の中で足が遊び、袖は幾重に折り曲げた。
黄色いフード先端からしたたり落ちてくる雨粒の向こうに広がる黒い針葉樹林を見つめていた。
『なんで、こんな場所にいるのだろう』
ふと、脳裏を言葉がよぎる。
翌日のローカル新聞の片隅に載っていたニュース。
『アジア人が、大量のレインコートとレインブーツを買い占めた』

冷たい雨の中、五感をフル動員して得た情報…
レインコートをまとい、冷たい雨の下で立ち尽くす黄色いペンギン。
目の前を通過するFR2WDラリー車・FR4WDラリー車・AUDIクワトロを目で追い、通過後のコーナリング姿勢と脱出速度を目に焼き付ける。これが、仕事の内容。
頭の中でクルマを走らせるのと、実物を見るのとでは、誤差がある。その誤差を埋める事ができたのは、はじめての海外出張の収穫であった。
タイヤの比較・エンジン性能の比較・ブレーキなどの評価メニューが終わった。そこまでで、収穫した内容を披露しよう。
- プロドライバーって、いろんなタイプの人がいる
今回のグラベル(未舗装路)コースは、丘の急勾配を登り下る。深い砂利もある。英国の林道を凝縮したコース。
評価ドライバーが言うには、
『それぞれのクルマに対して、自分の技量ギリギリの最大パフォーマンスで走っている。
タイム差は、純粋にクルマの差である』
当方が驚いたのは、評価車両に乗ると、スタートから全開走行。完熟走行は全くない。これが、モータースポーツのプロである証拠なのか? 欧州モータースポーツ界では、改良アイテムの白黒判定は、極めて早いと聞いていた。それを目の当たりにしたので驚いた。 - ★評価は、スタートして3周してゴール。そのタイム差が指標となる。
- タイヤの摩耗
ゴールしたFR2WDラリー車の駆動輪を観測したところ、トレッド面の溝がなくなり、ツルツルであった。
FR4WDラリー車の駆動輪は、多少の摩耗はあったが、まだまだ走れる状態であった。AUDIも同様であった。
『4WDは、2WDに対して『空転が少ない。駆動力が有効に伝えられる。』 - 走行タイム
4WDラリー車は、2WDラリー車に対して、●*秒/km速いが、AUDIよりも▲*秒/km遅い。
*●▲は、今後とも、秘匿事項になるので、数値明記はしない
●駆動系としての分析
●エンジン性能
エンジン回転数は、FR4WDよりもAUDIが高回転対応。
今回のコースでは、1➡2速へのシフトアップ、そして、
2➡3速へのシフトアップポイントの車速は、AUDIの方が
高い速度まで可能なので、変速段の守備速度範囲が広い。
AUDIの方が加速性能面から有利である。
●タイヤの差
AUDIのタイヤ銘柄は、●●●。
FR2WD/4WDは、▲▲▲。
タイヤの性能差も明確である。
● コーナリング性能については、AUDIよりも
FR4WDの方が上回る。

スコットランドの森の道。いろんな路面が存在する
これは、アンダーステアの強弱、すなわち、コーナーのトレース差・失速感(通過速度)の差になる。
●AUDIラリー車はセンターデフの無いフルタイム(直結)であり、コーナリングは低速で曲がっていく。外から見ていると、直線は速く、コーナー手前でしっかりと急減速し、グリップ走行でトレースし、コーナー出口で急加速して抜けていく。
●FR4WDは、コーナー手前で減速し、コーナー進入姿勢を決め、リヤスライド状態で抜けていく。さらに、コーナー手前の減速時の進入姿勢をスパッと決められれば、コーナー通過時間も短縮できるはず。
でも、どうすれば、この課題を解決できるのか?今回の出張中に解決したいと強く思った。そこからは、そのことばかり考えるようになった。
それと、フロントデフのLSDは、ロック率は弱いが、アンダーステア傾向を助長しているので、オープンデフの方が良いのではないか? と考えていた。