高速4WD実験車。時速300km/h越え挑戦
2025AUTOMOBILE COUNCILに入社した会社が出展していたクルマを観て、思い出すことがあった。
1987年、高速4WD実験車HSR-iは、JARI 谷田部テストコースで300km/hを達成した。
走行試験前には、プロペラシャフトを約9,000rpm維持して数時間回し続ける耐久試験をパスする試練が課せられた。
ペラシャフト高速回転試験の準備…構成部品の高回転対応
今回のお題である9000rpm連続耐久は、プロペラシャフトの構成要素部品を細目に事前検討し、最後に台上耐久試験で評価することを提案した。3分割ペラであるので、危険回転数は問題ない。NVHチューニングも問題ない。問題の有無を明確にするのは下記のポイントであった。
① 等速ジョイントの高回転対応
② ボール/ニードルベアリングの高回転対応

プジョー905 (HSR-iに似た形状)
ベアリングは、軌道面の円周が楕円軌道にならないように、外輪側の相手部品と内輪の相手軸の真円度を管理する必要がある。ベアリングが受ける荷重もポイントであり、発熱につながる。
等速ジョイントの高回転使用は経験が無く、もっとも、懸念した。すべての構成部品が機械加工なので、アンバランス精度もよく、アンバランス修正の必要が無いことが分かった。内部のグリースの回転偏りを懸念していたが、問題にはならなかったのは意外であった。
台上試験機で10,000rpm連続の空転試験をしてもらったが、提示した試験条件を難なくクリアした。
ペラシャフトの高回転台上耐久試験の挑戦
最後は、アセンブリでの台上耐久試験である。ユニット全体を試験できる台上試験装置を使い試験を実施した。耐久試験がパスした場合は、高回転によるバースト試験も実施することにした。バースト試験は、エンジンフライホイールやクラッチユニットでも実施する項目である。上司の主任は、エンジン設計出身。バースト試験の経験は多い。フライホイールがバーストするとき、すさまじい音がするとのこと。バーストしたフライホイールの破片が飛び散らないように、台上試験機の周りに土のうを積み重ねるそうだ。ペラの高回転耐久試験でもバースト対応をするように指示があった。

台上試験機(中国調査先設備会社にて)
長い3分割ペラを長手方向に覆う半円形状の肉厚鋼管を製作した。何が起きるか不明だったので、建屋には人が近づかないように進入禁止通達を出し、昼休みに本番開始した。コントロール室に陣取り、コントロールパネルを眼下に、試験装置を防弾ガラス越しに見ながら、試験メンバが回転数を上げていく。最初は、ゆっくりと、1000rpmから1000rpm飛びに回転数を加算していく。8000rpmに達したとき、コントロール室の床がビリビリと振動し始め、やがて、建物の柱からうなり音が反響しだした。
『大丈夫ですか?』
『大丈夫、試験機もしくは付帯装置が共振しているようですので、すぐに9000rpmに上げます』徐々に振動がおさまり、10,000rpmに到達した。静かにモータが唸っている。
温度上昇もチューブの振れも小さい。時間との勝負である。30分経過、1時間経過、2時間経過…
そして、目標時間に到達。徐々に回転を下げる。
そして、ゆっくりと停止。試験機室に入り、半円筒形状の鋼管を外し、ペラ全体を確認する。
目視での問題はない。締付部分の緩みも温度変化も許容値であり、合格である。
再び、半円筒形状の鋼管を締付けし、バースト試験に移る。台上試験機の許容回転数もあり、試験機の上限許容回転数を目標値として、確認スタート。10,000rpmから500rpm間隔で数分連続回し、500rpm上げる。その繰り返しで目標値まで問題無く試験完了した。試験後は、回転中心の変形有無などの計測をしたが問題ない。バーストしなかったので、試験ペラは、バランサーマシンへ戻し、バランス数値の変化を確認した。問題なし。
高回転耐久は、その後、数本の確認をし、合格となった。
ペラシャフト高回転の挑戦は達成した。